ロバート・パーカー著「世界の極上ワイン」より

究極の舌を持つテイスター、ワインの世界を変えた男、 帝王ロバート・パーカー自身の厳しい眼で選ばれた9カ国156のワイナリーを詳述しています。それはまさにパーカー自身の過去30年にわたるワイン評論の集大成と呼べるもので、ここまで冷静かつ詳しく調べ上げていることに感嘆させられます。
 

M. シャプティエ(Chapoutier)

100点満点を世界で最も多く取った男

この有名な歴史あるワイナリーは1808年に創設され、ローヌ渓谷内の5つのアペラシオンに70.8ヘクタールのブドウ畑を持つ。由緒あるローヌのネゴシアンであるシャプティエは、最近の数十年は混乱しており、良好で伝統的なワインをつくることで満足していたが、卓越したワインをつくることはめったになかった。1989年のマックス・シャプティエの引退に伴い、エネルギッシュで聡明な息子ミシェルが跡を継いだ。私のキャリアにおいて、シャプティエのセラーで起きたことよりも顕著な、ワイン醸造哲学における品質の向上と変化を見たことはない。ミシェル・シャプティエが達成したことは、ワイン界において波紋を広げた。彼はシャプティエのワインの醸造法とエルヴァージュのプログラムを完全に刷新した。その結果として、彼のワインはローヌ渓谷の最も偉大な生産者、マルセル・ギガルに肩を並べるようになった。

白ワインについては、ミシェル・シャプティエはアルザスのマルセル・ダイスとアンドレ・オステルダグに主に影響を受けた。要するに彼の基本的な目標は「土に帰る」ことであり、ワインメーカーの痕跡を抑えて、畑の特徴と典型性のレベルを上げることにある。若いシャプティエが言うように、「すべてが土壌とブドウ樹にある」のだ。「ブドウの特徴を殺して、土壌の品質を前面に出す」ことが彼の意図である。この目的のためにシャプティエはバイオダイナミクス製法で畑を耕すことを決断して、発酵の際には野生酵母のみを使うことにしたのである。1988年と1989年には、赤ワインについても白ワインについても剪定し、収量を抑えめの30〜35hl/haに下げるために摘房もなされた。

ミシェル・シャプティエは、赤ワインの醸造スタイルの方向性については、ジェラール・シャーヴとマルセル・ギガルのアドバイスを全面的に信頼している。彼が最初にやったことは、古い栗の木のフードル(以前のシャプティエのスタイルの特徴であった)を捨てて、オークの小樽に置き換えることであった。サン=ジョゼフとコート・ロティを除く赤ワインでは、完全な除梗を行ない、キュヴェイゾンは、3週間ないしは3週間半かけて行なう。ふたつの最も大きな変化には、オークの小樽での醸造だけでなく、最上の赤ワインと白ワインについては瓶詰めの前に清澄も濾過も行なわないというシャプティエの決断も含まれている。

15年間 (1989〜2004年)にわたって、ミシェル・シャプティエと聡明なエノロジスト、アルベリック・マゾワイエールは醸造を管理してきたが、これ以上に並外れたワインをつくりだしているワイナリーは世界にはほとんどない。同時に、これほど物議と敵意にさらされているワイナリーもほとんどない。ミシェル・シャプティエは、有機農法の取り組みのグル(教導師)で、ドイツで1924年になされた膨大な数の講義から『農業』を著したドイツのルドルフ・シュタイナー教授によって詳述された、バイオダイナミクス農法の率直な支持者である。シャプティエの批判者たちは、バイオダイナミクス農法をカルトあるいは魔術的だとして無視しがちであるが、質の高い生産者たち(例えばラルー=ビーズ・ルロワ、ニコラ・ジョリーなど)が、化学薬品や肥料、散布剤に数十年も依存した結果、ブドウ畑の健康に多大なダメージが与えられたことを認識して、ますますこの方向に転じるようになっている。ミシェル・シャプティエは、マルセル・ギガルやジェラール・シャーヴ、フランソワとジャン=ピエール・ペラン、そして故ジャック・レイノーなどのより伝統的な生産者に彼が負っている恩義に最初に気づいた入物である。しかしながら、品質の追求において、彼は行く先々で物議をかもす傾向がある。彼のがむしゃらな発言は、外交的な手腕がないようにもとれるし、しばしば同輩たちを容赦なく批判している。品質にこだわる生産者やワイン業界の人々、消費者は、シャプティエを中傷するのではなく支持してくれる人々であることを思うと、こうしたことすべてが残念でならない。彼が、若さゆえの旺盛さと、最上の畑を持ちながら高品質を目指さない生産者に対して、強迫観念的な性質を抑えることができるのかどうか、私には定かではないが、ミシェル・シャプティエがこの地球の輝き煌めく光のひとつになったことはまぎれもない事実である。

このワイナリーの指揮をとるようになってから10年近くたつが、ミシェル・シャプティエはいまだに満足しておらず、より高い品質を達成しようと奮闘している。彼曰く、「1989年にはどうやって音を出せばいいのかを知った。今は音楽のつくりかたがわかっている」。初期の作品が重々しくて強烈なまでのエキス分を持つ、単なる怪物級ワインであることを彼は明らかに白覚している。しかし、今日では、エキス分は存在するが、それに加えていっそうの複雑性とフィネスがある。それどころかシャプティエは、濾過をする生産者は風味は言うまでもなく、典型性とテロワールと個性をはぎ取ってしまうと信じている。彼が好んで使うもうひとつのせりふは、「ワインの濾過はコンドームをつけて性行為をするようなものだ」。

過去数年の間にシャプティエはセラーを一新し、空調と新樽を導入して、すべての細部に注意深いこだわりを見せた。ここは、モノセパージュ(単一のブドウ品種100%でつくるワイン)に確信を持っているワイナリーである。シャプティエのコート・ロティは、シラー100%であり、エルミタージュの白はマルサンヌ100%であり、シャトーヌフ=デュ=パープは、グルナッシュ100%である。彼は、ブレンドはテロワールとブドウの特徴を弱めるだけだと信じている純粋主義者である。
 

シャプティエのヒエラルキーの最上位を占めるのは、極めて古い樹の区画から顕微鏡でなければ見えないほどの収量でつくられた賛沢なキュヴェで、新樽100%で熟成され、通常は清澄も濾過も経ずに瓶詰めされる。このアペラシオンの基準点となるワインであるが、世界で産出される最も偉大な赤ワインと白ワインの部類に入る。南ローヌからはシャトーヌフ=デュ=パープ・バルブ・ラックをつくる。北ローヌのワインには、モーヴの村の背後にある丘陵の純粋な花崗岩土壌に植えられた樹齢80年の樹からつくるサン・ジョゼフ・レ・グラニと、クローズ=エルミタージュ・レ・ヴァロニエ、レ・メアルの古樹からつくる白ワインのエルミタージュ・ロレ(収量はしばしば1ヘクタール当たり1.25トンの果実である)、レ・ベサールの樹齢70〜80年の樹からつくる赤ワインのエルミタージュ・ル・パヴィヨン、ギガルの名高いラ・テュルクから石を投げれば届く距離にある樹齢75〜80年のブドウの区画からつくるコート・ロティ・ラ・モルドレがある。こうしたワインの生産量は恐ろしいほど少量であり、400〜700ケースであるが品質はけた外れである。

シャプティエ家は、エルミタージュにおける最大の土地の所有者であり、計130ヘクタールの畑のうち約30ヘクタールを所有していると主張している。彼らのキュヴェ、ル・パヴィヨンは、シャプティエ家が13.9ヘクタールの区画を有するレ・ベサールで最も樹齢の高い樹からつくられている。シャプティエのエルミタージュのためのブドウは、果梗を思わせる野菜のような要素を過剰に抽出することを恐れて常に除梗されている。ミシェル・シャプティエがワイン醸造を引き継いだ現在、通常はシャプティエが最後に収穫するエルミタージュの生産者である。

シャトーヌフ=デュ=パープにあるシャプティエの地所は、ラ・ベルナルディンと呼ばれている。25ヘクタールの所有地は、100%グルナッシュが植えられており、ある意味異例である。ミシェル・シャプティエは、彼の言うととろの「モノセパージュ」ワインに確信を抱いている。彼は、収量を制限すれば、こうしたワインがテロワールの最良の表現になると信じている。数区画から成るラ・ベルナルディンは1938年に購入された。最大の区画はアペラシオンの北部、ラ・ガルディーヌに近く、ヴィユー=テレグラフとべダリデの村に近い、アペラシオンの東部にある。1901年に植えられたブドウの樹がある最も古い区画は、アペラシオンの西側にある。1989年以来、この区画は、ラ・ベルナルディンのブレンドから選別されて賛沢なキュヴェであるバルブ・ラックがつくられるようになった。古樹のグルナッシュ100%のこのワインは、重々しく、壮大で、骨の髄までグルナッシュの表現であるようにつくられており、ジャック・レイノーのシャトー・ライヤスとそっくりである。バルブ・ラックの生産量は年間500〜700ケースの範囲であるが、ラ・ベルナルディンは、豊作のヴィンテージでは最大7,500ケースつくられる。少量ではあるが、白ワインのラ・ベルナルディンもある。

シャプティエは、購入したブドウと所有している畑のブドウとをブレンドして良好なコート・ロティをつくっている。品質における真の大躍進となったのは、ラ・モルドレと呼ばれている賛沢なコート・ロティのキュヴェである。1990年にデビューしたこのワインは、マルセル・ギガルのコート・ロティ・ラ・トゥルク、ラ・ムーリーヌ、ラ・ランドンヌに対するミシェル・シャプティエのオマージュである。この壮観なワインは、ギガルのラ・トゥルクの隣のコート・ブリュンヌに位置する非常に古い樹(平均75〜80年)が植えられた区画を選別してつくられている。

若き天才による妥協を知らないこれらのワインは、すぐに飲めるものを求めている消費者向けではない。これらのワインは、バイオダイナミクス農法を実践したブドウ畑のエッセンスであり、非常に低い収穫量で、その土地固有の酵母を使ってより長時間発酵させたものであり、清澄も濾過もせずに瓶詰めされるまでは、人の手が介在することはめったにない。ほとんどのヴィンテージでは、澱引きすらせず、自然のスタイルを高めている。これらはまさに注目すべきワインであるが、ほとんどの読者の方にとって、忍耐は重要なルールである。シャプティエのワインは、力量を見せるのに優に8〜10年を必要とするのだ。例えば、1989年と1990年のル・パヴィヨンは、二次的なニュアンスをほのかに見せ始めたばかりだ。両方とも30〜40年以上の熟成能力を持っている。

一時はボロボロであったが、1980年代後半以降このワイナリーは、向こう見ずだが非常に才能のあるミシェル・シャプティエの監督の下で、ローヌ渓谷のほぼすべてのアペラシオンの基準点のひとつになった。単一畑のワインは、ローヌ渓谷のワインで達成しうる最高のものである。さらにシャプティエは、単一畑のワインを500ケースよりもかなり多く提供しているこうしたワインの品質を向上させ続けている。